最近は、女の子が食べているときの咀嚼音(そしゃくおん)が人気です。ムシャムシャ、クチャクチャ、バリバリ……。私たちが子供のころは、こうした音は下品とされてきましたが、今どきは違うんですかね?
咀嚼音は「ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)」ともいわれます。ASMRは、わかりやすく言い換えれば、「気持ちいい音」。口の中に入った食べ物が、歯によって粉砕され、唾液と混ざっていく音は、人間の聴覚に刺激を与えるのは確かです。全員が咀嚼音を心地よく感じるわけではなく、「クチャクチャという音が気持ち悪くて嫌!」という人もいるでしょうが……。
そんな咀嚼音に関する議論はさておき、私は「食べる」という行為それ自体に魅力を感じます。食べ物の多くは、もともと人間以外の生物でした。つまり、人間にとって、食べ物は異物なんですよ。それが口の中に入ると、異物は人間の生命を支える栄養分へと変わっていきます。食べることは受容することであり、そこには生命の連続という神聖な側面があります。「食べる」を咀嚼音のレベルでしか把握しないのはもったいないと思います。
今回紹介する動画では、2人の女性が寿司を食べていきます。寿司は、シャリ(ご飯)とネタ(刺身など)が組み合わさった、日本が生み出した食の芸術です。シャリの白さとネタのカラフルさのコントラストも美しく、時として「食べるのがもったいない!」と思ってしまいます。
そんな寿司が2つの口の中にどんどん消えていきます。左側の女性がガリ(甘酢生姜)を噛み砕くポリポリという音が響く中、右側の女性は手巻き寿司を食べようとしています。シャリからあふれている赤いのはサーモンです。間からは細長く切ったキュウリが垂れています。この手巻き寿司にかぶりつく口、口の端から垂れるキュウリ、食い千切られたノリ――。一口では食べ切れない手巻き寿司ならではの食べ方に思わず見入ってしまいます。
一方、左側の女性は、握り寿司や軍艦巻きを次々と食べていきます。大きなサーモンの切り身や真っ赤なとびこ(トビウオの卵)の粒々も口の中に消えました。程よい大きさの寿司が一口、二口くらいで食べられるのは気持ちのいいものです。
黙々と寿司を食べていく2人――。クチャクチャというシャリやネタを咀嚼する音が響き渡る一方で、あれだけあった美しい寿司たちがだいぶ減ってしまいました。最後は卵で〆です。一口では食べ切れない大きな卵焼きをかじり、半分砕けた薄黄色いそれを、最後にギュッと口に押し込む2人がとても愛おしくなりました。
動画に映っている2人は日本人ではないため、食べ方も豪快です。寿司がどんどん食べられていくのを見るのが好きな人や、存分に咀嚼音を堪能したい音フェチには、たまらない動画だと思いますよ。