土を食べる文化は世界各地で見られます。現代の日本人からすると、奇妙な食文化に見られがちが土食ですが、科学的根拠はさておき、さまざまな効用が指摘されています。
私たち現代人は、ミネラルを補給するためにサプリメントを引用することがあります。マグネシウムやナトリウム、カルシウム、鉄、亜鉛など、通常の食生活では摂取が難しいミネラルは、小さなカプセルになって販売されています。しかし、これらのミネラルの多くは土に含まれています。わざわざ高いお金を払って、しかも過剰摂取も気にしながらサプリメントを引用するよりも、土を食べた方が合理的な気すらします。
食塩にしても、海の水を蒸発させて作る以外にも、鉱物としての岩塩も調理に使われるくらいですから、土を食べることはそれほど驚くに値しないでしょう。
一般的なミネラル補給の効用だけでなく、薬用としての土食も報告されています。岩石のベントナイトは下剤として、カオリナイトは下痢止めとして利用されます。
民間療法レベルでは、江戸時代の家庭用医学書『救民妙薬』に「伏龍肝(ぶくりゅうかん)」の記載があります。伏龍肝はかまどの内側の焼けた土のことで、難産の際に用いると効果があるとか。もともとは中国の薬学書『本草綱目』に記載されていた漢方薬の一種で、嘔吐・下血・止血に用いられてきたといいます。
現代医学では必須とされる抗生物質も、その原料はアオカビが作るペニシリンです。カビから薬を作る技術を開発した人類にとって、土をかじるくらい何てことないはずです。
もっとも、土食の背景にあるのは、食べ物を得られないという貧困の問題が大きいと考えられます。サハラ砂漠の広がるアフリカ大陸や年中氷で閉ざされた極寒地など、そもそも植物が育たず、動物も少ない地域では、食べるものが土くらいしかありません。日本の古典にも、飢饉が起こったために、人々が土を掘り起こして木の根を食べたなどの記述があります。そこまで飢えた人々は、木の根だけでなく、土そのものも食べたんじゃないでしょうか?
前述のベントナイトや、藻類の一種である珪藻の殻が化石化した珪藻土は、基金の際の食料になったといいます。珪藻土に関しては、アイヌ民族が、「チ・エ・トイ」(われら食べる土)と呼んで食べていました。
そんな土食文化は現在もアフリカ南部に残っています。その様子を映した動画がYouTubeで公開されています。
道の片隅にある露店では、女性が茶色い塊を販売しています。砂糖か塩の塊のように思うかもしれませんが、これらは全て土。しかも、食べるための土なんですよ。この国では食材としての土は珍しいものではなく、人々も普通に買っていくといいます。実際、土を購入した女性はそれを袋から出して、まるでスナック菓子をかじるかのように、土の塊をポリポリ……。特に違和感がないですね。
販売されている土には有害な成分が含まれていないのはもちろんのこと、その触感や味わいは中毒性すらあるみたいです。食べ始めると止まらなくなる人も続出!「やめられない、とまらない、かっぱえびせん」状態です(笑)
別の動画では、水分補給の代わりに土を食べると話す女性が映っています。「喉が渇いたな」と思ったら、土を食べると、喉の渇きが癒えるそうです。土の中に含まれている水分が彼女の体内を潤すんですかね?
ちなみに、動画に映っている女性が土を食べ始めたのは5年前から。体の異常を感じて何度か病院に行って、鉄不足と診断されて薬を処方されたそうです。しかし、今度は薬の量がどんどん増えていって……。そんな時期に土を食べ始め、土食の魅力に取りつかれてしまったんだとか。
彼女の場合、栄養価の無いものを食べることで満足する異食症の疑いがあります。とはいえ、薬漬けになるよりも健康的そうですし、本人も満足しているんですから、特に問題ないのでしょう。彼女が言うには、「この土を買っているのは私だけではありません。私のように土を食べている人たちは沢山いると思います」。文化として土食が残っている地域だと、先進国では「異食症」と診断される症状も、一般的な食の嗜好と見なされるんだと思います。
「土を食べる」という、私たちからすると「えっ?」と思われる行動の背景には、文化や個人の持つそれぞれの事情が見え隠れして興味深いものがあります。食糧難も予想される未来の人類にとって、土食は大きな可能性を秘めているんじゃないでしょうか?