中国では、唐代末期から「纏足」と呼ばれる風習が流行しました。
纏足は、女性の足を変形させる一種の身体改造です。3、4歳頃の少女たちは、親指を除く4本の指が内側に折り曲げられ、木綿の布で足全体を巻かれます。これによって、足の発育が妨げられると同時に、骨の形まで変形してしまいます。纏足を施された少女たちは激痛に苛まれますが、親は纏足をやめません。そして、最終的に足のサイズが10センチほどになれば完成です。
纏足は、「足の小さい女は美しい」という当時の美的感覚から生まれた習慣です。南唐の李煜が足の細い女性を好んだのが起源とされる纏足は、唐代末期以降は一般大衆に普及しました。「纏足していない女は結婚できない」とまでいわれていたので、少女たちは苦痛に涙を流しながら纏足を受け入れていったんですね。
纏足された足は、男性たちからは「金の蓮(はす)」と呼ばれました。纏足した女性は、歩くのが困難で、足取りがフラフラします。そんな女性を見た男性たちは、自分たちの優位を感じ、女性を支配する喜びを感じたのでしょう。また、纏足した足自体に魅力を感じる男性もいました。妻の足指を使って酒を飲んだとか、纏足用の靴を脱いだときの足の臭いを嗅いだとか……。いつの時代も、特殊な嗜好の男性はいるものです。
中国の王朝が清に交代してから、纏足禁止令が何度か出されましたが、纏足文化は根強く生き残りました。しかし、1930年頃から「纏足は国の恥」という意識が浸透し始め、最終的には第二次世界大戦後の文化大革命で止めを刺されました。現代では廃れた纏足ですが、その写真を集めた動画がYouTubeで公開されています。
纏足によって変形した素足、折れ曲がった足のレントゲン写真、赤や青の美しい模様が施された纏足用の靴……。纏足文化を記録した貴重な写真の数々が次々に映し出されます。
当時の女性たちにとっては、現代に生きる女性たちが必死でダイエットするのと同じ感覚で、足をずっと締め付け続けたんでしょうね。痛みに耐えることで得られる“美しさ”は、彼女たちの誇りだったのかもしれません。
現在、纏足した女性たちの高齢化が進み、当時を知る人々が年々少なくなっています。彼女たちが守ってきた“美”も、彼女たちの命とともに消滅しようとしているんですね。
纏足からもわかるのは、人間の美意識は社会によって形成されるということです。現代人の多くは纏足を見てドン引きするでしょう。しかし、纏足が流行した当時の男性たちは、纏足された女性の足を見て「美しい金の蓮だ!」と大喜びだったに違いありません。今回の動画を見ながら、自らの趣味嗜好と社会との関係に考えを巡らせてみてはいかがでしょうか?