少女が便器に向かって屈んでいます。髪の毛を両手で押さえながらウウンウウンと声を漏らし、気持ち悪そうです。しばらくして嘔吐しました。吐瀉物が大量に吐き出され、便器の中が茶色く染まりました。母親と思われる女性の声が “Are you OK?” と語りかけると、少女は再びゲロゲロと吐きます。胃の中にあるものをすべてを吐いたようです。
何のためにこの動画を公開しているのかは解説に書かれています。それによると、嘔吐した直後は胃酸が歯のエナメル質を溶かす可能性があるため、若い人たちに「吐いたら必ず歯を磨いてください」と伝えようとしたかったそうです。
歯の表面は「エナメル質」と呼ばれる硬い組織で覆われています。エナメル質はとても堅固で、「人体の中で最も硬い」といわれるほどです。成分の97%はリン酸カルシウムの「ハイドロキシアパタイト」という無機物質から構成されています。ハイドロキシアパタイトはとても硬く、摩耗にも強いため、食べ物を噛み砕くときに歯を保護します。また、細菌やウイルス、口の中に入った有害物質から歯を保護し、冷たいものや熱いもの、酸などの刺激を防ぎます。一方、エナメル質は一度損傷すると再生せず、失われた部分は元に戻りません。
エナメル質はそう簡単に損傷しませんが、酸によって溶けることがあります。嘔吐すると、強酸である胃酸で口の中が満たされるため、エナメル質が溶けます。これを「酸蝕症」といいます。そのため、過食症などで頻繁に嘔吐をくり返すと、常に胃酸が口の中に流れ込む状態になり、歯の表面にダメージを与えかねません。そして、酸蝕症が進行すると、歯の形や色が変わります。歯が透明に見えたり、黄色く変色したりするのは、エナメル質が薄くなった証拠です。
動画の解説にもある通り、酸蝕症を防ぐために嘔吐後に歯を磨くことが推奨されます。しかし、嘔吐直後に歯を磨くと、口の中が酸性になっていることから、エナメル質に過度の圧力をかけかねません。そのため、嘔吐してから約30分後に歯を磨くのが好ましいとされます。口の中の酸性が中和されて歯を傷つけるリスクが軽減されるからです。
また、 嘔吐後の歯磨きは、フッ化物入りの歯磨き粉を使用して、ゆっくり丁寧に磨くと効果的です。胃酸が口腔内に広がっているので、歯だけでなく舌などもきれいにする必要があります。最後に、口を水でゆすいで、口腔内の余分な歯磨き粉や食べカスを除去します。
歯の健康を保つためにも、ゲロを吐いた後には歯磨きをするようにしましょう。それが難しい場合は、せめて口を水でゆすぐようにするとよいでしょう。