韓国の魚市場を映した動画を見た私は衝撃を受けました。というのも、貝の入ったザルとザルの間に、蠢くソーセージの入ったザルがあったからです。ぶっといソーセージの中で、空気が移動しているかのごとく、膨らんだ箇所がゆっくりと動いています。腸の一部をぶった切って並べたような奇妙な光景です。
動画に映っているソーセージは、「ユムシ」という海生生物です。浅い海域の砂地に棲息していて、縦穴を掘って巣にし、微生物の死骸などを食べます。日本の海でも見られる生物で、北海道では「ルッツ」、和歌山では「イイ」などとも呼ばれます。釣りを全くしない私は知りませんでしたが、マダイやクロダイを釣るときの高価な釣り餌なんだそうです。
ユムシは、日本では一部地域で珍味として食されることはありますが、市場に流通することはありません。一方、韓国の沿岸地域では、串焼きやホイル焼きに加えて、刺身としても食べられています。苦みや臭みはなく、甘みがあって、触感もコリコリしているとか……。
動画には、ザルの中から取り出されたユムシに包丁を入れるおばちゃんの姿が映っています。口(?)の部分を切り落として、横に包丁で切り裂くと、黒いものがドバァ~ッとあふれます。見ているこちらは、もう「オエェ~」って感じです。そして、反対側も切り落として中身を全部出されたユムシは、ペッタンコになって、パッと見イカの胴体みたいです。それを輪切りにすると、やっぱりイカの胴体……。生前のユムシのグロテスクさが消えてしまいました。不思議ですね。
おばちゃんは、手際よくユムシを次々と切り刻んでいきます。ユムシがかわいそうな気もしないでもないです。包丁を入れられたユムシが真っ黒い泡を吐き出したのなんて……。とはいえ、あくまでも食材ですから、同情はしないで成り行きを見守りましょう。
輪切りにされたユムシを水で洗うと、やっぱり見た目はイカの胴体です。もしくは、ホルモン焼きでおなじみの小腸や大腸。あれほどグロテスクだった生物が、私たちにとっても見慣れた食材っぽくなりました。そして、この輪切りの状態でパックに入れられて、ユムシはお客さんの手に渡るんですね。輪切りユムシはタレに付けて食べるみたいです。
日本ではなじみのないユムシに対して、私はつい偏見を抱いてしまいました。「こんなの、本当に食べられるの?」と。しかし、捌いてしまえば、グロテスクでも何でもなくなります。むしろ、「美味しいんじゃない?」と思ってしまったくらいです。
動画の後半ではイカが解体されますが、ユムシもこのイカと同じ。私たち人間にとっては食材に過ぎないんですよ。あらゆる生命を貪欲に食べ尽くす人間の食欲こそが、もっともおぞましいのかもしれません。