道端にお金が落ちていたり、自動販売機のおつり返却口に小銭があったりすると、ついつい気になってしまいませんか?そのお金がたとえ五円玉や十円玉だったとしても……。まして百円玉だったら、誰も見ていなければ、そっと手を伸ばすのではないでしょうか?
そんな人間の浅ましさを描いた大人のブラックメルヘンを紹介しましょう。タイトルは「壁の1ドル札(Dollar on the Wall)」です。
寝袋を抱えて歩道を歩いている、ちょっとメタボ気味なおっさん――。彼はあたりを見回して人が見ていないのを確認すると、壁際に寝袋を広げました。そして、ポケットから1ドル札(約100円)を取り出して、セロテープで壁の上の方に貼り付けました。彼が背伸びして届く場所に張り付けたので、背の低い人は1ドル札を取れないでしょう。
その後、おっさんは寝袋の上に、仰向けの姿勢で横たわりました。酔っ払いが倒れているか、ホームレスが昼寝をしているように見えます。
そこを通りかかるのは、ピンクのシャツにデニムのミニスカートという格好の若い女の子――。彼女は目ざとく壁の1ドル札を発見して立ち止まりました。人通りの少ない歩道で、誰も見ていないと思ったのか、彼女は1ドル札に手を伸ばします。足元にはおっさんが目を閉じて横たわっているので、そのおっさんが目を覚まさないように、足元を慎重に確認しながら……。
彼女はおっさんの体を踏まないギリギリのところで背伸びをしてみますが、1ドル札に手が届きそうもありません。2回チャレンジしますが、それでもやっぱり無理……。
この間、おっさんはうっすらと目を開けていたのかもしれません。そうすれば、一生懸命手を伸ばしている女の子を下から見上げる格好になり、“見たいもの”がもろに見えるでしょうからね。おっさんは、この状況を狙っていたのでしょう。壁の1ドル札は罠なのです。
そんなことも知らずに、女の子はさらに大胆な行動に出ました。なんと、おっさんのメタボ腹を踏み台にして、1ドル札を取ってしまってではないですか!
腹を踏まれたおっさんの顔は、痛みと苦しみからか、少し歪みましたが目を覚まさず……。いや、おっさんはきっと、目を覚ましています。しかし、あえて何もしなかったのだと思います。というよりも、これがおっさんの本当の狙いだったのでしょう。
女の子に踏まれる――。1ドルでこれを実現できるなら、そっち系のフェチにとってはかなり安いものです。おっさんは、無事に自らの欲望を満足させることに成功したのでした。なかなかの頭脳プレイでした。
金が欲しい女と女に踏まれたいおっさんの勝負は、当然おっさんの勝利です。女の子は「1ドルGET!ラッキー!」と思っているでしょうが、残念ながら、おっさんに良いように利用されたというわけです。
無言劇ですが、ブラックユーモアにあふれていて、わかる人にはわかるおもしろさがあります。金に目がくらむとろくなことにならないという教訓にもなっていますね。